解説

北海道健康づくり財団は、北海道における主たる死亡原因の標準化死亡比(standardized mortality ratio; SMR)を、「北海道における主要死因の概要」として、3~4年に1度の割合で発行してきた。第9巻目となる本巻では、2006年(平成18年)から2015年(平成27年)までの10年間を対象とした。

第3巻目である「北海道における主要死因の概要Ⅲ」は1986年(昭和61年)から1995年(平成7年)までを、第6巻目である「北海道における主要死因の概要6」は1996年(平成8年)から2005年(平成17年)までを、それぞれ対象としていたから、本巻はこれらからちょうど20年および10年の間隔を置いたことになる。

なお、第2巻(1983年~1992年)と第5巻(1993年~2002年)と第8巻(2003年~2012年)、第4巻(1990年~1999年)と第7巻(2000年~2009年)もそれぞれ10年の間隔で対応している。

第3~5巻では、疾患の分類として、第9回修正国際疾病分類(ICD9;1994年以前)と第10回修正国際疾病分類(ICD10;1995年以後)が混在していたが、第6巻以降で扱った疾患はすべてICD10で分類されている。各市町村の人口は北海道庁のサイトに掲載されている資料によった。これ以外の資料はすべて「政府統計の窓口」のサイトに掲載されている「人口動態統計」および「国勢調査」の資料によった。

対象疾患

対象疾患を表1に示す。この表には、人口動態統計で使用される正式名称を掲げたが、本文では、部位別の悪性新生物の名称については、煩雑さを避けるため、表の括弧内に示す一般的名称を用いた。
不慮の事故には交通事故が多数含まれているため、今回は前回に引き続き、不慮の事故から交通事故を除いた。悪性新生物・心疾患・脳血管疾患については、それぞれを構成する個々の疾患のSMRを算出するだけでは状況がわかりにくいため、これらについてまとめたSMRも算出した。

計算方法

SMRの計算方法は以下の通りである。下式において、分子は実際の死亡数、分母は期待される死亡数ということになる。

SMR = T × 100(%)
∑Ci × Di

ここに
T は対象とした市区町村における死亡数
Ci は全国における第i年齢階級における死亡率
Di は対象とした市区町村における、第i年齢階級の人口
である。

① 死亡数:各市区町村における各疾患による男女別の死亡数は、表1に示したICD10のコードを鍵として、人口動態統計から求め、10年間を合計した。これが死亡数である(上式のT)。

② 期待(死亡)数:全国における各疾患による男女別・5歳年齢階級別の死亡数は、上記資料により、それぞれ10年間を合計した(これをAとする)。

全国における男女別・5歳年齢階級別の人口は、2010年(平成22年)と2015年(平成27年)に実施された国勢調査で得られた数の平均とした(これをBとする)。

男女別・5歳年齢階級別のAを対応するBで割って、全国における死亡率を算出した(これをCとする;上式)。

各市区町村における男女別・5歳年齢階級別の人口も2010年(平成22年)と2015年(平成27年)に実施された国勢調査で得られた数の平均とした(これをDとする;上式)。

各市区町村において、男女別・5歳年齢階級別のCに、対応するDを掛け、その結果を男女別に合計した。これが期待数である。

死亡数と期待数の間の有意差の検定は、実測死亡数が10以上の場合、χ2検定(自由度1)により行った。

χ2 = (T - ∑Ci × Di)2 (死亡数 - 期待数)2
∑Ci × Di 期待数

死亡数が9以下の場合は、期待数をパラメータとするポアソン分布により、P値を算出したが、死亡数が小さい場合、結果は不安定であるから、解釈に当たっては注意が必要である。

結果

表2に、2015年(平成27年)の、北海道および全国における部位別悪性新生物の順位とその死亡数を示した。

表3に本シリーズの第2~9巻に掲載された疾患について、北海道全体としての男女総合のSMRの推移を示し、さらにはこれを図1では疾患別に、図2では当該推移が一目で把握できるようグラフにまとめた。なお、最近の巻になってSMRの結果を掲載し始めた疾患(胆嚢がんなど)については、この図には示していない。

また、図3では本巻の数値をグラフにまとめた。

各疾患の男女別の死亡数・期待値・SMRを市区町村別に算出した(表4)。また、各自治体の男女の死亡数を足して、これを男女の期待数を足したもので割ったものを「男女総合」のSMRとし、市区町村別および保健所別に示した(表5・6)。今回の対象期間内に合併した自治体があったが、本巻では合併後の市区町村について算出した。同様に、保健所が管轄する町村の移動もあったが、2015年(平成27年)における管轄として算出した。

本巻中、*は有意水準5%で、**は1%で、SMRが有意に高い(つまり、全国に比べ死亡することが有意に多い)ことを、-*は5%で、-**は1%で、SMRが有意に低い(つまり、全国に比べ死亡することが有意に少ない)ことを、それぞれ示す。

わが国全体としては、2005年(平成17年)に総人口がピークを迎えた後、多少の増減を繰り返しつつ、全体としては減少に向かっている。ところが、北海道ではこれより早く、20世紀末から総人口が減少し続けている。例えば、2010年(平成22年)から2015年(平成27年)までの総人口は、わが国全体としては0.8%の減少だったのに対し、北海道では2%以上減少している。今回のSMRの計算には、2010年(平成22年)と2015年(平成27年)の人口を使用したが、これ以外の年(特に2009年以前)において人口減少が甚だしかった自治体においては、それに伴って死亡の絶対数も減少する方向に向かうことから、SMRは低く出ることになる。

また、人口の少ない自治体においては、死亡の期待数が小さいことから、SMRの絶対値が大きくなりやすく、かつわずか1~2人の死亡数の増減でSMRが大きく変化する。例えば、期待数が0.5であって1人死亡した場合には、SMRは200となるし、2人死亡するとSMRは400となる。人口が少ない自治体のSMRを評価する場合、注意が必要である。

人口動態統計では、「住所地主義」が取られている。例えば、北海道外に住所を持つ者が、北海道で交通事故死した場合は、北海道における死亡にはカウントされないし、札幌市に住所を持つ者が本州で自殺した場合、札幌市の自殺者と見なされる。